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自分を応援する者を罵る言葉をカーテンの向こうにいる憧れの人は聞いていたはずなのに、そこから現れて庇うことはなく……。
うなだれて聞いた屈辱の言葉。それをこんな遠いイギリスで、英語で身近に聞かされて。
「ふ……ざけんな……」
握り締めた手のひらに血が出そうなほど爪を喰い込ませて、デブオタは呻いた。
「日陰にいる奴は一生、踏みつけられていろっていうのか、搾り取られて死ねっていうのか……」
そして、まるでそれを肯定するような言葉が彼の耳に入ってきた。
「だから私の視界に入ってきちゃいけないの、陽光の差す場所なんかに出て来ちゃいけないの。さっさと日陰で枯れて腐って、せいぜい私のような存在の肥やしになってちょうだい」
その瞬間、煮えたぎったデブオタの怒りはついに頂点に達した。
――もう我慢ならん!
憤怒に燃える彼の中で心のゴングが打ち鳴らされた。
「その喧嘩、オレ様が買った!」
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年に一度開催されるイギリス最大のスター・オーディション「ブリテッシュ・アルティメット・シンガー」の開催日。
その日、イギリス中から畏敬と賛辞を受けてデビューする歌姫にふさわしいのは私しかいない。
……そのはず、だったのに。
プロの歌手を目指す一六歳の少女リアンゼル・コールフィールドの、「イギリス最大の歌手オーディションで優勝を惜しくも逃した」というのは、実はほとんど脚色だった。
プロダクションの期待を一身に担って出場したはずの彼女は、本当は最初の選考ステージで落選していたのだった。
ステージを降り、付き添いのマネージャーに会わせる顔もなく会場から飛び出した彼女は、やり場のない怒りをぶつける為にこの公園に辿り着いたのだった。
そこに、知り合いの少女がよく憩っていることをリアンゼルは知っていた。
知り合い、といっても友達ではない。日英のハーフであることを理由に学校でリアンたちがいじめの標的にしていたスケープゴートだった。
今では学校に顔を出さなくなった彼女は公園でひとりで草花を眺めたり、人目から隠れるようにして歌を歌っていた。
そしてリアンゼルは、時折公園に訪れてはそんな彼女にストレス解消の悪罵を浴びせる。そのたびに彼女は何も言い返さず泣きべそをかくだけだった。
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