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彼は途方に暮れたが放っておく訳にもいかず「オレ様の顔を見ろ、いや見てくれ」と言いながら背をかがめて両手の人差し指で口の両端を吊り上げて笑顔を作った。
少女は、最初はシクシク泣いてばかりで見ようともしなかった。
しかし、「ほら、ほら」と、おかしな仕草で子供でもあやすように懸命に笑いかけるデブオタにようやく視線を向け、泣き止んだ。
「ほーら怖くない怖くない。オレ様はキモいけど別に悪い奴じゃないよー」
少女の涙が止まったのを見て、デブオタは宣誓するように右手を上げた。
「もしかして日本語の方がわかりやすいか? 大丈夫。オレ様はアンタに怒らない。ドゥーユーアンダースタン?」
英語から日本語に切り替え……というより日本語と英語のチャンポンでデブオタは尋ねかけた。
「イエス。ありがとう……」
少女はデブオタの顔を見上げ、ホッと息をついたデブオタと初めて目を合わせた。
脂ぎった大きな顔。お世辞にもハンサムとは云えなかったが、四角い眼鏡の奥の瞳は、意地悪なリアンゼルを辛辣な悪罵で叩きのめしたさっきとは違う、穏やかで優しい色を湛えている。
少女は感謝の気持ちを伝えようと懸命に笑顔を作ったが、ずっと怯えて強張った顔は引き攣ったような表情にしかならなかった。
「おし。じゃあ、とりあえずここじゃ人目が煩いし、場所を変えて詳しい話を聞かせてもらおうか。乗りかかった船だし相談に乗れるようなら乗ってやらぁ」
「……」
返事がないので、デブオタは少女の顔を覗き込んでゆっくり繰り返した。
「ここから移動する。お茶を飲む。アンタの話をオレ様にして欲しい。助けてあげられるなら力になる。そう言ったんだけど……オレ様の日本語、わかるかい?」
うなずいた少女の唇が動いていたので、「ああん?」と、デブオタは耳を近づけた。
「聞こえなかった。もう一度言ってくれ。せーのッ」
「……はい」
本当に蚊の鳴くような、小さな声だった。
「落ち着いてお茶を飲めるところって、どこか知ってるかな?」
「……」
答えがないので見ると、少女は慌てて「知ってます」というように頷いた。
また、デブオタの耳には聞こえないほどの声だったらしい。
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