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ー海、行かねぇ?
これが今回の話の始まりだった。
昼頃、時間をぬって愛妻弁当を広げた。彩り良く健康に気を使った中身と量でちょっとだけ正直に言えば仕事がつまっている時は物足りない。しかし彼女の愛がこの弁当箱にはつまっている。
デスクで弁当を広げたその時
「冬馬いる?」
やたらいい男の声が響いた。
ビジネスパートナー、飛ぶ鳥落とす勢いのヒットメーカー、プロデューサーの南僚吾だ。
俺は
「いるよ、弁当中だけど仕事なんだろ?ソファーセットの方に行ってちょっと待って」
弁当を手早くまとめお茶の入ったポットを抱え指定したソファーセットの場所に急いだ。
南はゆったりとソファーに腰をおろし足を組んで買ってどれだけ経ったか分からないブラックの缶コーヒーを弄んでいた。
俺は慣れたように気にしないで弁当を再び広げた。
南は
「奥さん栄養士だったっけ?立派なお弁当だな」
そう言うと缶コーヒーを開けた。
ここは映像製作プロダクションでコマーシャルやプロモーションビデオ作りもしている。
今現在2月でイベントに合わせた仕事がつまりつまって暇は無かった。特にコマーシャル関係のスタッフは、だから少しの合間の今、休みをやれるスタッフには休みをやっていて、手透きのスタッフはいない。だから応対のお茶を出す余裕もあんまりない。
俺は弁当を食いながら
「で、今日は何の話で?」
「あぁ、キラキラの話で…」
キラキラとは、ファンタジーな恋愛掌編を短編映画化する話でクランクインはこの春の予定だ。
「ライターが主人公18歳のシーンのキラキラは本物でやって欲しいって」
「ちょっと待て、本物って確か夜光虫で青く光輝く海に天の川と降り注ぐような流星群だろ?確かに暦上じゃ見れるかもだが自然現象なんだぞ?」
ポットのお茶を飲んで
「あーあれか、そのシナリオライターたしか、"その人物が感じた音、匂い、その瞬間のリアルな感情"まで表現したいって、女性作家だよな?」
南もコーヒーに口をつけながら。
「彼女は繊細で感受性豊かだ、だからこそ人は共感する」
「彼女の意思を尊重したい」
「…仕事は忙しい?」
「時間作れっての?プロデューサー様の考えは尊重いたしますよ」
「じゃあ、ちょっと海、行こう。18歳の彼が彼女に逢う場所を考えよう」
空の弁当を片付けて、映画の企画書と俺が書き散らした雑記帳を開く。
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