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今時期の海なんてあんまり行きたくない。寒いしすぐ日が暮れるし、書き付けのだいたいの海の場所は神奈川だった。見てまわるなら急いだ方がいい、南を急かした。
事務所の駐車場。
海には南の愛車で行く事になった。
ツーシータのスポーツカー、優雅なアールが視線を惹き付ける。乗り込むと微かに甘さを含んだ紙巻き煙草の薫りがした。
走り出す車内で冬馬はかすかに窓を開けた。
「匂うか?」
「かすかにね、喫煙の習慣がないとすぐに分かるだろう」
「気をつけてはいるんだがしょうがない」
「この煙草珍しい銘柄だったよな、そのへんのコンビニで買えんの?」
「いや、買い取り注文してる、カートン単位注文」
「へぇ…」
流れる視界、急がせたせいか早々に車は法定速度ギリギリで走る。
この車に何人の才能ある人間が乗ったのだろうか?南、彼の人脈には売れっ子ライターからミリオンダラーベイビーまで魅力的で才能ある人間は多い。
嫉妬と焦燥の入り交じった感情に流されて憎まれ口をたたく。
「…さすがと言うべきか、お前らしいと言うべきか、最高の貴婦人を乗り回すのは、常に周囲に素晴らしく魅力的な人間がいるからか?だから車もそうあるべきとか?」
しばしの沈黙の後
「下衆勘繰りだとは思わないでやる、海に行くんだ、ひとつ謎なぞに答えろよ」
一つ、「彼女」はある一人の「男」に操舵されなければならない。
一つ、監視されていない瞬間に「彼女」は権力を握る。
一つ、「彼女」は積まれ過ぎるのを嫌う。
一つ、所有者が変わると「彼女」は新しい名前に変わる。
一つ、「彼女」はいつも服装に金が掛かる。
一つ、「彼女」は所有者が考えた以上に維持費が掛かる。
一つ、「彼女」はある「男」を奈落の底に引き込むかも知れない。
一つ、「彼女」は出かける前に、白粉し着付けをしなければならない。
一つ、年と共に「彼女」は費用効率が低下する。
「何か、はしょってる箇所あるだろ、それだと答えは"どこぞの悪女"になるぞ。」
「じゃあ、彼女は何だ?」
「船、だろ?」
「そうだな、まぁ、言いたいのは世界中の船乗りも女を乗り回してる話になるぞっと言うことと」
「男がメカに感じる愛もみんな同じだろ」
高速をおりてしばらく走ると目的の海がすぐだった。
この辺は観光地でサーファーも多い、デートコースでもあるから道すがらファッションホテルがあるのもご愛嬌ってやつだ。
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