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四月某日夜半。
コーンウォール州・キャメルフォード近郊「虐殺橋」……。
その恐ろしげな名前からくる印象とは違い、これといって特になんの変哲もない石橋のかかるカメル川の畔に、平坦な、苔生した石が一つ置かれている。
その、〝アーサーの墓〟と云われる石の傍らに彼らは立っていた……。
草木も眠る深夜のこと、昼なお人気の少ないこの場所には彼ら以外に人の姿は見当たらない。
それも川沿いの小道から数メートル下った、普段、人が足を踏み入れることなど滅多にないような場所である。
こんな時刻に、しかもこんな場所で、彼らは一体何をしているのだろうか?
上空を吹きすさぶ荒涼とした風に薄墨を引いたかの如く拡散した雲が流れ行き、時折、その薄くなった部分から漏れる朧げな月の光で彼らの姿が闇の中に映し出される。
人数は、一人、二人……計、十二人である。
修道士か、あるいは何かの儀式を執り行う宗教結社の一団なのだろうか? 皆、茶色の長いローブを纏い、フードを頭からすっぽり被っている。
その内の一人、他の者達よりも一歩、アーサーの墓に近付いている男がおもむろに口を開いた。
「ここ、虐殺橋周辺は我らが王――アーサーが最後の戦いを行い、モルドレッド卿との死闘で致命傷を負ったカムランの地……だが、この石の下にアーサー王はおらず!これは我らが王ではなく、マルガヌスの息子ラティヌスなる者の墓である!」
男は夜空へ両手を広げ、やや芝居がかった声でさらに続ける。
「我らが王アーサーはカムランの戦いの後、妖妃モルガンの船でアヴァロン島へと運ばれ、かの地で傷を癒しつつ復活の時を待っている……アーサー王は生きておられるのだ!」
そこまで高らかに語った男だが、ふと、声の調子を落として一団の方を振り返る。
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