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「はい……しばらくは隠し遂せていたのですが、ついに彼女の夫の知るところとなって……別に法の上での罪を犯したわけではないですし、表だって処分されるようなことはなかったのですが……その、やはり、いづらくなって……勿論、彼女の夫もこのことは秘密にしていましたが、同僚達は薄々感付いていましたからね」
「それは確かにお仕事を続けていくには辛い環境ですね……そのお相手の女性も、やはり、ご一緒にお辞めになって?」
「いいえ。彼女は残りました。体面を気にする夫とも離婚することなく……ま、もう皆知っていることですから、今更、体面も何もないんですけどね。でも、彼女は私よりも社会的地位のある夫と、そして、仕事を選んだんです。彼女は仕事が生き甲斐でしたから。辞めたのは……私との関係の方です」
「それでは、その方との関係はもう完全に……」
「ええ。終わりました……」
そう答えかけた私だったが、すぐに言い直す。
「いや、終わったはずでした……ですが、どうしても忘れられないんです。もう、あれ以来ずっと会っていませんが、今でも彼女を愛おしく思っています」
「なるほど。それがあなたを苦しめている悩みなのですね……」
わたしの告白にカウンセラーは頷くと、何か思うところでもあったのか不意に押し黙る。
再びしばしの沈黙……しかし、次にその口が開かれた時、どういうつもりかカウンセラーは、まるで関係のないような質問を私にしてきたのだった。
「……ところで、今はロンドン市内にお住まいとのことですが、ご出身はどちらで?ずっとこちらですか?」
「え? ……あ、いえ。湖水地方のグラスミアです…が、それが何か?」
「ほう……湖水地方ですか。それはまた風光明媚な良い所のお生れで……グラスミア湖といえば、かの有名な詩人ワーズワースの住んでいた……」
訝しげに答えたわたしに、カウンセラーは意味ありげな笑みを口元に浮かべてさらに続ける。
「ええ。そこです。その田舎の小さな村で生まれ育ちました……といっても、父はフランス人なんですけどね」
「フランス人? ……というと、お母様の故郷がグラスミアなのですかな?」
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