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「はい。父は小説家だったのですが、湖水地方を旅行で訪れた際に気に入って移住したらしく……ほら、ワーズワース以外にも、南西のウィンダミア湖畔には『ピーター・ラビット』の作者ベアトリクス・ポターの家があったりと、文学者には好まれる土地のようですからね……そして、その旅の途中、グラスミアの宿屋の次女だった母を見染めたというわけです」
本題とはまったく関係のない話に不信感を抱きながらも、私はしばらく帰っていない故郷のことを思い出し、その懐かしさに思わず饒舌になっていた。
「なるほど。そうですか……時にディオールさん。剣術や馬術をお習いになったこととかはございませんか?」
そんな私に、カウンセラーはさらに奇妙なことを訊いてくる。
「剣と馬ですか? ……ええ。まあ、馬は子供の頃から。剣術(フェンシング)は学生時代にやっていなかったこともないですが……一応、地方の学生大会で優勝したこともあります」
それでも奇遇というのか、それともそういう人間は意外と多いのか、多少なりとも憶えがないわけでもなかった私はそう答えたのだったが。
「やはり……これではっきりしました。あなたを苦しめている問題の原因が……それは、あなたの前世にあるのです!」
彼は、普通聞いたら頭がどうかしているとしか思えないような、そんなとんでもないことを言い出したのだった。
「前世?」
「ええ前世です! あなたの前世はアーサー王の円卓の騎士の中でも〝第一の騎士〟と謳われた、かのランスロット卿だったのです!」
「は? ……それは、何かの例えですか?」
当然、私はそれを鵜呑みにはしなかった。というより、彼が本気でそんなことを言っているなどと考えすらもしなかったのである。
「いいえ。例えでも比喩でもなく、そのままの意味です」
「ちょ、ちょっと待ってください。前世云々という話もですが……そもそもランスロット卿の話というのは誰かが作った創作物語じゃないんですか? そんな架空の人物が前世だなんて……」
改めて言い直すカウンセラーに、私は彼の正気を疑いつつ、慌てて反論しようとするのだったが……。
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