Ⅱ アーサー王の被疑者達(1)

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 とは言っても、それはマクシミリアンのそうした性質からのものではない。確かに取っ付き難くはあるが、こういうタイプの人間なら警察関係者…特に責任ある行動を求められるキャリアの中にはよく見られるものであるし、そんな輩にはレストレイドも慣れている。それよりも問題なのは、彼の肩書(・・)の方である。  文化財保護だかなんだ知らないが、自国の犯罪捜査に外国人が首を突っ込んでくることなど縄張を荒らされるに等しいものであり、英国首都警察の総監であるレストレイドとしても正直、おもしろくはない……しかし、相手は外交特権も与えられているICPOの捜査官兼ユネスコの担当官だ。リヨンの事務総局経由で、上からも「くれぐれも失礼のないように」とのお達しが回って来ているし、他の者ならばいざ知らず、あたら無碍にすることもできないのだ。  そんなフラストレーションを感じているレストレイドに、マクシミリアンが続けて言う。 「それと、今回の訪英目的にはもう一つ、文化財犯罪の捜査と予防対策に関する意識の啓蒙活動があります。マリアンヌの件は情報を得たことによる偶然の産物であって、本来の予定からすれば、むしろこちらが本職です。お話は行っていると思いますが、本日はこちらで担当部局との意見交換会をさせていただいた後、明日以降は各地の警察署や視察場所を回らせていただきたいと思います」 「ええ、それも伺っていますよ。一人専属の者を付けますので、先程の怪盗の件と合わせて、その者に案内をさせましょう……ええと、明日は土曜ですが、どちらかに参られる予定になってましたかな?」 「明日はコーンウォール州の方を訪れてみるつもりです」 「コーンウォール? それはまた、いきなり飛びますな」  コーンウォールはイングランドの一番南西に位置する半島部の州である。東のロンドンから翌日いきなりブリテン島を横断して西の端まで行くことに、レストレイドは訝しげな表情をその肉付きの良い顔に浮かべた。
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