Ⅱ アーサー王の被疑者達(1)

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「午前中にそちらの警察署で文化財犯罪に関する勉強会があるのですが、なんでも近くで〝キャメロット〟――即ちアーサー王の宮廷だった可能性が高い丘城(ヒルフォート)の遺跡が発掘され、ちょうど明日、その発掘調査の現地説明会があるらしいのです。併設してアーサー王所縁の物とされる貴族の伝世品を所蔵する博物館もあるそうですし、そちらの視察もかねて行ってきたいと思います」 「ああ、そういえば、そんな記事が今朝の朝刊に載ってましたな。確かキャメルフォードの近くだとか……しかし、アーサー王というのは本当にいた人物なんですかね? 私らなんかは子供の頃から実在の人物だと聞かされて育ちましたが、最近、本を読んでいたら、そうでもないようなことも書いてあったのですが……」  レストレイドはふと浮かんだ疑問への軽い好奇心と、少しこの青年を試してやろうかという意地悪な気持ちからそんな質問をしてみた。 「あ、いや、あなたのようなユネスコに出入りしている方でしたらわかるのではないかと思いましてね。別にわからなければ結構ですので……」  ただし、それはほんの軽い気持ちからのもので、別に真剣に答えが聞きたいわけではなかったし、オーストリア人の彼が英国の英雄についてそれほど詳しく知っているなどとは思ってもいなかったのだが……。 「実在の人物とも、架空の人物とも言われています。どちらの説もそれを決定付けるような確たる証拠はなく、また、完全に否定できるような証拠もない……故に〝どうちらとも言えない〟というのが、正解でしょう」  マクシミリアンはひどく真面目にその質問に答えたのだった。 「現在、世間一般に広く知られているアーサー王像は、1469年ないし70年に書かれたサー・トーマス・マロリーの『アーサー王の死』によるものです。これはそれまでに存在した様々なアーサー王関連の物語を一つの長大なストーリーにまとめ上げたものですが、その骨子となっているものといえば、さらに遡って十二世紀、ジェフリー・オブ・モンマスの手による『ブリタニア列王記』ですね」  そして、満水の川の堰を切ったように、レストレイドが求めた以上の回答を返し始める。
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