Ⅱ アーサー王の被疑者達(1)

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「あらすじをいえば、物語はアーサーの受胎に始まり、彼は石に刺さった王の証しである剣を抜いてブリテン全土の王となる。王となったアーサーは魔術師マーリンの力を借りて反旗を翻したブリテン諸国の王達を倒し、さらには大陸に渡ってローマ皇帝とも戦い、それから主要な円卓の騎士達の冒険や聖杯探求の話が語られた後、最後は謀反を起こしたモルドレッド卿と死闘を演じて、致命傷を負ったアーサーはアヴァロン島へと運ばれて幕を閉じる……といったところでしょうか」 「あ、ああ、私の知ってる話も大体そんな感じですが……」 「もし、総監の言われているのがそうした〝空想(フィクション)のアーサー王〟であるならば、それを史実とするのには勿論、無理があるでしょう。しかし、歴史上、五~六世紀頃に実在したことが確かな人物をアーサー王のモデルと考える説も様々な根拠を持って語られています。例えば、ちょうど明日行くコーンウォール半島をその影響下に置いていたドゥムノニアの王なんかもその一例です」 「ど、どむ?」  予想外にいい反応(レスポンス)に、レストレイドは面喰って間抜けな言葉を口走ってしまう。 「ドゥムノニアとは七王国時代(ヘプターキー)の頃に、イングランド西南部のデヴォン州やサマセット州などを支配していた王国です。このアングロサクソン人達が七つの王国を築いていた六~九世紀という時代にあっては珍しい、ローマの末裔的ブリトン人の国でした。七王国といっても実際には七つ以外にいくつかの小国があったようですが、ドゥムノニアはその小国の方です」 「は、はあ……」  レストレイドは呆けた表情をして、能弁に語るマクシミリアンの顔を大きく見開いた目で見つめた。 「この説では、ジェフリーの『ブリタニア列王記』などでアーサーの祖父とされるコンスタンティヌス三世を、名前が似ているということからドゥムノニアの〝クステンヌン・ゴーニュ〟という人物だと考え、アーサー王はこの国の王族の一人ではなかったかと考えています」  なんだか知らないが、どうやらマクシミリアンのスイッチを押してしまったらしい……態度や口調は先程から変わっていないが、まるで何かに取り憑かれでもしたかのように、彼は早口で小難しい話をすらすらと語っていく。
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