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――朝。目覚めると渡邊さんの姿は消えていた。
靴は無くなっていたし、玄関の鍵も開いたままになっている。帰ったのだろう。
(……変なコだったな)
堅い床で寝たせいか、体の節々が痛い。起き上がり、思い切り伸びをしていると……ある物に気付く。
それはテーブルの上に置かれた紙だった。
電話機傍に置いていたメモ帳を使ったのだろう。半分に折られた紙を広げ、中を確認する。
『昨夜はお世話になりました。ありがとうございました。
このお礼は必ずさせてもらいます。
070-××××ー××××
渡邊 裕美』
わざわざお礼を書くなんて律儀だなと思った。そして携帯電話を持っていたんだな、と。
「おっとヤバい、今日は朝イチから講義あるんだった」
気を取り直して支度を始める。シャワーを浴びようと服を脱ぎ、浴室の扉を開ける。すると――
「…………なんだ、これ……」
目に止まったのは、排水溝。そこにビッシリと、長い髪の毛が詰まっているではないか。
(渡邊さんの髪……だよな? いっちゃ悪いけど、気持ち悪いな……)
夜中、浴槽に腰をかけて自分の爪を噛み続ける彼女の姿を思い出し、ぶるりと背中が震えた。
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