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一瞬、扉を開けるべきか悩んでしまう。玄関外にいる渡邊さんは、じっとこちらを覗いているようにも感じた。
ピンポーン……
再び呼び鈴が鳴らされる。仕方ない、そう思った自分は扉を開けた。
「……あれ、渡邊さん。どうしたの?」
白々しく、そんな事を言ってみる。すると渡邊さんは、じっとこちらを見ながら囁くように告げた。
「……すみません。忘れ物をしてしまったみたいで取りにきました」
「あ、そうなんだ。何? 何を落としたの? 探して持ってくるよ」
「いえ、あまり人に触れられたくない物なので。よかったら探させてもらっていいですか」
「あ……うん、構わないけど」
そういうと渡邊さんは部屋に入ってきた。昨夜と全く変わらない恰好、そして手には大きなデパートの紙袋を持っている。
渡邊さんは床に這いつくばると、じっとベッドの下を眺めたり手を伸ばしたりしていた。
手伝おうか、と言っても何も答えてくれない。だから自分は、黙って彼女の様子を窺うほかなかった。
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