2001年8月8日

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脱衣場は一畳ほどしかなく、さらに何故か扉など存在しない。 ぼんやりと暗闇の中、鏡にうつる自分の顔を見て少しビビる。背後に誰かいたらどうしよう、などと考えてしまったからだ。 恐る恐る浴室の扉を開けてみる。すると―― ……渡邊さんは、いた。 狭く真っ暗な風呂場で、風呂桶に腰かけガリガリと親指を噛みながら俯いている……彼女。 ごくりと生唾を飲み込み、意を決して訊ねてみた。 「…………なに、してるの?」 彼女は自分のほうを見ないまま、呟くように答えた。 「…………別に……ここにいると、なんだか落ち着くんです……」 「……そ、そう……」 沈黙すると、彼女の爪を噛む音が耳に届く。 ガリガリガリガリ とりあえず事の説明をしておいたほうがいいかなと思い、続けて話しかけた。 「眠っていて起きなかったから、自分の部屋に連れてきたんだけど……驚いたでしょう? ごめんね」 「…………いえ」 「今日は遅いし、休んだほうがいいよ。俺が気になるようなら出ていくけど……」 とはいえ、最近コンビニが出来たほどの田舎町である。今のようにネットカフェもないので、今の時間に外へ出てどこで時間を潰すかなど分からない。 「……いいです。あなたの家なんですから、あなたはいてください。私は気にしませんから」 「…………あ、うん……」
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