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「わ……渡邊……さん……!」
震える声で、なんとか相手の名前を告げる。
彼女は何かをブツブツと呟きながら、指先をそっと口元へ持っていく。
「――は、いいの……だって私達は……気持ちは繋がっているんだって……とは違う……あなたは絶対に……」
言っている意味は、さっぱり分からない。理解しようとは毛頭思わない。
カゴを置きっぱなしにして、自分はそのまま逃げる。追いかけられるという事はされなかったが、相手は自分の住む所を知っているのだ。安心は出来ない。
駆けている間中、幻聴が聞こえた。ガリガリ、ガリガリと――
渡邊さんの、爪を噛む音が……
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