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「私はっ、弓道部の、日向先輩の後輩です」
「はぁ、」
気のない私の返事にますます眉を吊り上げて、ずいと一歩迫ってきた後輩さんは、西くんにもぎろりと視線を向けてから私を見た。
「三好先輩。さっきの、なんなんですか?」
「さっきの?」
はて、なんだろう?
「三好先輩、知ってますよね?ここは弓道場から見えるんですよ。日向先輩は、いつもあそこからここを見上げてるんです!それを知らなかったなんて言わせません!」
「そのことなら、知ってるけど……」
「じゃあ、知っててその人と抱き合ってたんですか!?」
「……抱き合ってる?」
「そうですよ!私が見つけて日向先輩に教えたんです!ひどいです!!日向先輩という人がいながら、他の人と抱き合うなんて!」
え?はぁ?
いつどこで私が西くんと抱き合ったって?
さっき、ここで?
いやいやいや。あれは西くんが……って、なんで、
なんで、
「私、先輩があなたとうまくいってるのなら、諦めようと思ってました。でも!!あなたが他の人と浮気してるなら、私、諦めません!!」
おい。
私が口を開こうとしたのに遮ったな?
しかも言いたいこと言いやが……
「先輩。私、日向先輩のこと、好きです!!」
おい!!
一方的すぎるだろ!!
あまりの勢いに声が出ない。
口をぱくぱくする私。
後輩さんがバッと奏太を振り返り、その勢いにようやく我に返ったらしい。
奏太はぽかんと開けた口を閉めて片眉を持ち上げると、口を開いた。
「杉野、」
「杉田です」
杉野ではなく杉田さんはきらきらした瞳で奏太を見上げたのだが。
奏太は鋭い流し目で視線を送ると、
「迷惑だ」
ハッキリキッパリと、言い放った。
「でも先輩!先輩も、見ましたよね!?」
食い下がる後輩さんを前に、奏太は腕を組むとじろりと見下ろす。
「西ははるかが俺のことを“ものすごく”好きなのを知ってるし、俺は西が俺たちの邪魔をしないことを知っている」
「でもっ、」
「杉野」
杉田ですよ、奏太さん。
「“でも”はない。俺は迷惑だと言ったしわずかな可能性すらない。はるかと西に何があったかは君には関係ないだろ。さっさと部活に戻れ」
奏太さん。
我が彼氏ながら、その辛辣な物言いに背筋がぞくぞくします。
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