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蝉の煩い夏の日の午後。 教室の窓からは熱風が入り、室内では扇子で自身を扇ぎながら授業をする先生の声。 選択科目の数学の授業は、教室、座席、メンバーがいつものクラスとは違うから。 なんとなく。 ほんの少し。 そわそわする。 小さく息を吐いて、先生の声を聞きながら窓の外へと視線を向けたら、トン、と机を叩く音がした。 「三好サン。今日もあっちーな?」 私の前の席、窓側一番前の座席のそこに、片足を外側に投げ出して。 殆ど窓側へと背中を寄りかからせるように座るその人は、私が顔を上げるとニコッと笑い八重歯を覗かせた。 声を出すのもおっくうな私は、本当にうんざりだという顔を作って頷く。 そうしたら、その人は小さく「ジャーン」と効果音を唱えながら団扇を取り出して、私を軽く扇いでくれた。 「ありがとう、西くん」 風に目を細めてお礼を言うと、西くんは私のノートに視線を落とし、団扇を持つ手とは反対の手で、トン、とノートに指を置いた。 「ここ、間違ってるぞ」 「……え、」 それはついさっき問題が並ぶプリントが配られて、早々に公式を当てはめて解き終わっていたものだ。 「……えー、」 小さく唸りながら消しゴムを手にした私の前で、西くんは団扇の手を持ちかえて、自分と、それから私にも当たるように扇いでくれた。 「え……さっきと同じ答えになった……」 「うん?……ほら、ここ。ここはプラスになるだろ?」 西くんは言いながら、ひょいと私の持つシャーペンを取り、すらすらとプリントの端に書きこんで行く。 「しかも、ここ、計算間違ってる」 書き終わったシャーペンの背でトントンとプリントを叩いて、間違った箇所を示した。 「あ、ほんとだ」 暑さで半分溶けそうな顔をしたまま、うなだれて問題を解きなおす。 頭上からじっとプリントに注がれる視線を感じつつ、他も大丈夫?と聞こうとした時。 「こら、お前ら。黙ってやれ」 先生が扇子で扇ぎながら、だるそうに横で立ち止まった。 「教えて貰ってました」 そう言った私の言葉に、先生が西くんへジロリと視線を向ける。 すかさず、 「俺はもう終わってまーす」 西くんはそう言って、「教えてました」と付け加えた。
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