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後輩さんがしょんぼりと図書室を出て行くのを目で追っていた。 もし奏太が断らなくても、私が奏太を渡さないよ。 ごめんね。 何が何でも、そこは譲れないから。 「で?」 で? 見送っていた顔を戻せば、奏太は半目にして、じろりと西くんを見た。 「何があったの?」 「えー。言わなきゃだめ?」 西くんがへらりと笑って見せたが、奏太は片眉を持ち上げて返事した。 「ダメに決まってるだろ。理由次第ではさっきのことを許さないよ」 「……ですよねー!」 八重歯を見せて笑う西くんを奏太がじっと見つめる。 その雰囲気は、それまでの嵐のようなものとは違って、どこか穏やかで。 無意識に詰めていた息を吐き出した。 「いやぁ、俺さ。彼女に振られちゃった、みたいな」 西くんがおどけて肩を持ち上げて笑って見せる。 奏太は眉を寄せると一度目を伏せて、ぽんと西くんの肩に手を置いた。 「どおりで泣いてたわけだ」 「うぉ!?見られてた!!」 「しっかりな」 「うーわー。なんかいい予感がしないんですけどー」 西くんの言葉に、奏太がにやりと口の端を持ち上げた。 うん。 西くん、私もいい予感がしないよ。 案の定、奏太が西くんの肩に置いた手をぽんぽんと跳ねさせた。 「そうだな。その予感通り、西の弱みを一つ握った、ってところかな」 「やっぱり!!」 私も西くんと声をそろえて言ってしまい、奏太が私に視線を移すとくつくつと肩を揺らした。 「いくら西がはるかと“友達”でも、接触はゆるさないから」 にっこり。 奏太は楽しそうに笑ったけれど。 笑顔が、怖いよ。 「日向クン、笑顔がこえーって!はははっ!!」 西くんも私と同じことを思っていて、思わずと西くんを見た私の頭に、奏太の手が乗った。 「はるか」 「うん?」 「杉野のことは気にするなよ?」 私を見つめる奏太の目はすごく優しく細まって、頭に乗った手が撫でおろす。 「うん。大丈夫。私は、奏太が“ものすごく”私のことを好きなの知ってるし。っていうか、杉野じゃなく杉田じゃない?」 「……そうだった?」 「……多分?」 「いや、お前ら。関わったやつの名前くらい覚えてやれよ!日向クンに至っては後輩だろ!」 西くんの突っ込みに私たちは声をあげて笑った。
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