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「はぁーあ、」
西くんはぐっと伸びをすると、声を出して溜息を吐いた。
そして私たちを見て微笑むと、カバンを肩にかけた。
「さーて、待つ人もいなくなったし、帰りますか」
のんびり歩きだした西くんは、何かを思い出したように振り返った。
「西。どうした?」
「んー。あのさ」
「…………?」
そろって首を傾げた私たちに西くんはにっこり八重歯を見せて目を細める。
「俺、放課後たまに来ることにするわ」
「ここに?」
「そ。三好サンとおしゃべりしに来る」
「無理してこなくていい」
楽しそうに笑顔を見せる西くんに、奏太はややかぶせ気味に否定したんだけれど。
「うん、わかった!」
私はそう返事した。
「……はるか、」
「奏太。私、西くんに課題教えてもらわなきゃ」
文武両道な奏太はじっと私を見つめると、苦く笑って小さくため息を吐く。
「いや、三好サン。俺は“おしゃべりしに来る”って……」
「西。はるかの数学の課題、ちゃんと見てやれよ」
「見てやれってお前どの立場から言ってんの!……って、まぁ、うん、おーけー。三好サンの課題、ちゃんと教えとくわ」
「よろしくな」
「はいはい、んじゃ、またなー」
今度こそ図書室を出て行った西くんに私は小さく笑う。
そんな私に奏太は腕を伸ばし、ゆるく抱き込んだ。
私の視線は窓に向かい、思ったことをそのまま口にした。
「奏太」
「んー」
「私が西くんと抱き合ってたって、思った?」
あそこから見れば、そう見えたのかな?
奏太の肩に頭を預けて窓を見ていれば、奏太は抱きしめた腕に力を込めた。
「いや。俺ははるかを信じてるし、西がそういうことする奴じゃないって思ってた」
「そっか」
よかった。
さっきの言葉は後輩さんに向けてだったから、ちゃんともう一度聞きたかったんだ。
奏太の背中に腕を回したら、回された腕にギュッと力が入る。
後頭部を撫でる手が骨ばっていて、それは愛おしそうに髪を梳いた。
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