ある夏の日

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私の曽祖母は、酷い姿で亡くなっていました。彼女は次男の孫だった私を毛嫌いしていたし、まだ子供だった私には大人の事情なんて分からなからなかったのですが、親族一様口を揃えて「あれは呪われて死んだ」と言うほど酷い有様だったと聞きました。 そんな曽祖母が死んで数年後、叔母はお腹に第一子を授かりました。その頃叔母は結婚して千葉に移り住んでいましたので、幼い頃、私も何度か遊びに行かせて貰いました。 その日、私が蒸し暑さで眠れず、布団で寝返りばかり打つのを見かねて、お話をしてあげようと言ってくれたのです。叔母もまた、子供の胎動で眠れずにいたようです。 話というのは、曽祖母の事でした。 叔母が第一子を授かる少し前、家で一人旦那の帰宅を待っていたときの事でした。外の寒さとは少し違う、嫌な寒気を感じたそうです。なんだか息苦しさを感じ少し横になると、その息苦しさは和らぎました。 この頃、妊娠を疑っていた時期でもありましたので悪阻だったのかもしれません。そのまま目を閉じるも、今度はすぐ、首元に違和感を感じたそうです。 ぐっと締められるような、不自然な違和感でした。驚いて目を開けると、曽祖母が叔母の首を締めていました。細い腕で、一体どこに力が入るのかわからないくらい、それは強い力でした。叔母が必死に抵抗するも、力は強くなるばかりで、いよいよ意識が遠くなったそのとき 「産みなさい」 耳元で曽祖母の声が聞こえて来ました。叔母は必死に、嫌だ嫌だと心の中で抵抗していましたが、力は一向に緩まず、またその手を振りほどくことも出来ずに、そのまま曽祖母を受け入れる事にしました。すると、曽祖母は叔母の体に入り込み、叔母は翌月妊娠が分かりました。 叔母は私に、曽祖母を生むのよ、と膨れた腹を撫でながら言いました。臨月も迫り妊婦の青筋張った大きな腹と胸が、子供心に一層理解できず、女体の神秘さよりも薄気味悪さを感じていたときでした。 この得体の知れない膨らんだ腹の中には、呪われて死んだ曽祖母がいる。私は叔母の存在を、一層気味悪く感じました。 眠れない夜に、怖い話でもして驚かせてやろう、そういう魂胆だったのかもしれません。その日の夜は、曽祖母が来ないことを、また叔母の腹で蠢き続ける子供が間違って生まれて来ないよう、怯えたまま朝を迎えたのでした。
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