友人との語らい

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職を失ってからもう直ぐ一カ月。 こまかい奴もいるだろうから、正確にいうと二十五日だ。 俺は未だに仕事を探そうとはしていない。 何故なら俺には夢があるからだ。 いい歳して笑われるかもしれないが、俺は音楽で喰っていきたいと思っている。 俺は十六年前に捨てた夢を、もう一度追い掛ける事にしたのだ。 だからしばらくは仕事を探さず、この築四十年のおんぼろなアパートの中で、ギター片手に曲をひたすら作り続けるつもりだ。 生活はどうするんだと思われるだろうが、風呂とトイレは付いているものの、この見るからに安アパートと言える住まいで頑張ってきたお陰か、一千万円近い金が俺の銀行口座に眠っている。 まぁ、その大半が退職金である事はここだけの話だがな。 それだけあれば、養う家族もいる訳ではないし、一年ぐらい働かなくても大丈夫だろう。 そんな多忙な俺の今日のスケジュールは、昔ふらりと入ったスナックで知り合った十年来の友達と、俺の家で酒を飲む事になっている。
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