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「ネットでさ、お前の死因が一つ増えたよ。今度はストーカーから逃げてた女が、とうとうこの旅館で殺されたんだとさ」
滝沢はくくく、と笑った。
「お前はただの病死だっていうのにな。成仏できないは、だれを恨んでいるわけじゃなく、ただ俺の事が心配なだけだろ?」
煙は、ゆっくりと白い着物をまとった美女の姿になった。
「まったく、情けないよ。『幽霊が出る宿』なんてお前を客寄せパンダにしないとやっていけないんだから」
妻の幽霊は、淋しそうな笑顔を浮かべた。そして両腕をさしのべ、滝沢を抱き締める。けれど、実態のない幽霊に触られても感覚はない。それが滝沢にはひどく悲しかった。
もしもこのまま宿の経営が安定し、俺が一人前の人間になり、妻が心配しなくなったらそのとき初めて彼女は成仏できるのだろう。おそらくはそれが正しいのに違いない。
でも、そうなったとき、自分は幸せでいられるだろうか。滝沢には分からなかった。
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