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「ねぇ、あいこ」
「なにー?」
「今日でたぶん終わりだろうね」
「そうだねー」
「本当にどこにも行かなくていいの? 外には人っ子一人いないよ」
「うーん・・・。じゃあ、あそこ行きたい、ミナモ山」
「ミナモ山かぁ」
「うん。ここから近いし、あそこからの夕陽きれいじゃん」
「確かにそうだね」
”世界が終わる”そう告げられたのはつい先週のことだ。
信じる者なんていなかった。しかしその二日後、どこか遠くの国に大きな隕石が落ちた。
程なくして大きな地震が起き、空が暗くなった。
それから数日間、とても外には出られない状況になった。
テレビ放送が止まった
暴動が起きた
隣のマンションは半壊し、向かいの家は焼け落ち、外からは常に何かが壊される音、誰かの奇声、たまに銃の発砲音が聞こえた。
止める者などいない
警察、消防、自衛隊なんて関係ない。
普段どんなに温厚だった人も、正義を振りかざしていた人も、そうでない人も、世界の終わりを前にすると、みんなの奥底に眠っている”できるわけないでしょ”と苦笑するような、常識的に真っ先に除外されるような、そんな夢みたいな願望を叶えようと、豹変してしまう。
もちろん自暴自棄だってあるだろう。でも、そんな事はどうだっていい。
誰かを殺したって、アイドルをレイプしたって、世界遺産を壊したって、どうせみんなすぐ死ぬのだから。
世界の終わりの前に地獄が来た。そう思った
その間は、あいこと二人で怯えながら家にこもっていた。被害にあわなかったのは本当に運が良かった。
僕とあいこは昔からどこかロマンチストなところがあったから、早めに外に出て食糧を買い込んでおいた、まさか功を奏すことになるとは思わず、ちょっと笑った。
電気、水道、ガス、ネットは使い放題だった。案の定、ネットの世界は大盛り上がりだった。
そんな地獄も二日前くらいにぱたりと終わり、とてもとても静かになった。
そして、暗くなっていた空が突然明るみ、きれいな夕陽のままで止まってしまった。
最後の輝きなのだろうか、それはとても美しく見えた。
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