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僕は、本当につまらない、くだらない理由であいこを深く傷つけてしまった。
言葉で再構築することはできたけれど、同じ部屋にいても、言葉を交わしても、あいこに近づくことはできなかった。
あの日だってあいこは泣かなかった。それが僕には余計辛かった。顔を思い切りぶって欲しかった、怒鳴り散らして欲しかった。しかし、あいこはけだるそうに僕を許すと言っただけだった。
あいこは全部お見通しだ
昔からそうだ、あいこはよく僕を見ていた。今思うとあいこについた嘘は全部ばれていたのかもしれない。僕はバカだから、あいこの掌の上でうまく転がされていたんだ。
そうだとしても、あいこはいつも僕の世話を焼いてくれた。中学生の時も、大人になってからも、それが癖になっているかのように僕のそばにいてくれた。
そして今も、僕と同じ部屋にいて、出発の準備をしている
あいこはわかっている
怒ることもせず、別れることもせず、何もなかったかのように僕と一緒にいることが、僕にとって一番苦しい事だということが。
「こんな日に化粧なんてしなくていいでしょ」
「こんな日だからだよ」
「何か持っていくものある?」
「うーん、ちょっとした飲み物と食べ物があればよくない?」
「まぁ、そうだね」
「ほんと、僕らって呑気だよねー。もうすぐ世界が終わるっていうのに」
「呑気っていうより、いきなりすぎて何もできなかったんでしょ?」
「そうなんだけどさ、両親に会いに行ったりしなくていいの?」
「あんな状況じゃ無理だったし、生きてるかわかんないから別にいい。ていうか、気が散るから話しかけないで」
「ご、ごめん」
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「できたよー」
「じゃあ、行こうか」
「うん」
そうして僕らの、最後のお出かけが始まった
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