2人が本棚に入れています
本棚に追加
あの日からあいこは僕のことを”たっくん”と呼ぶ。僕の苗字は田口だから、昔からそう呼ばれていた。でも、結婚してからは同じ苗字になるからと名前の方のあだ名で呼ぶようにした。
あまりにも自然に呼び方が戻ったこともあって、僕は問い詰めることができなかった。当てつけなんだろうけど、思ったよりさりげなくて逆に辛かった。
あいことは小学校からのいわゆる幼馴染。僕は年下だから小さい頃はずっと後ろにくっついていた。
当時のあいこ姉ちゃんは同じ地区のいじめっ子からも、苦手な犬からも僕を守ってくれた。あの頃の僕からすると最強の存在だった。
中学生になると身長が急に伸びて、あっという間にあいこ姉ちゃんを追い抜いてしまった。同級生の中でも高い方になって、サッカーをやり始めたこともあり、いじめられることは無くなっていた。
お互い忙しくなって毎日一緒にいることはなくなったけれど、それでも週1くらいで晩御飯を一緒に食べたりはしていた。どんなに身長が伸びても、体を鍛えてもあいこ姉ちゃんには頭が上がらなかった。たぶん、この辺から女の子として意識していたと思う。
この街には今までの思い出がそこかしこに詰まっている。これからの人生もこの街に捧げるつもりだったけど、立派に地獄絵図と化してしまった。
幸い、夕焼けのオレンジが景色を少しマイルドにしてくれている気がする。ミナモ山は僕らの思い出の場所だから、何か僕に言いたいことでもあるのだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!