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この男の常套手段なのだろうか──
以前と誘い方がまったく同じだ。ルナは半分呆れながら頬を牽きつらせ、軽く笑って返す。
「はは…、あの、ここでいいからって…っ!?」
「いいでしょ、病み上がりに立ちっぱなしは良くないよ?行こうよ」
断るルナの手を強引に掴むと歩き出す。
「ちょっ…ここで待つようにって言われてるからっ……」
「誰に?」
「俺に──…」
「──…っ…」
ぞくりと男の背筋が震えた。
肩をとても強い力で掴まれて耳元で低い声音で凄まれる。
ルナは急に現れたグレイにホッとしながらも怒った表情を向けている。
グレイはそんなルナを見てみぬ振りをして男の肩を掴んだまま口にした。
「この娘になんの用がある?」
「…っあの、病み上がりだって言うからソファを勧めようかとっ…」
「ソファ…ほう…で、ソファで何をする気でいた?」
「な、なにってっ…」
男はゆっくりとしたグレイの尋問に冷や汗を吹き出していた。
一言、発する度にその声に威圧が込められる──
掴まれた肩がとても痛い。
よく見れば掴んだその指の爪が数センチも鋭く伸びて肩に食い込んでいた。
「ヒッ」
思わず短い悲鳴を上げた。
いつの間にか周りを取り囲む、シルクハットと燕尾服姿の男達──
周りとは一線引いた違う雰囲気を辺りに漂わせる。
グレイは若い男の怯えた姿をふっと笑い口を歪めた。
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