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ガタガタとした何とも言えない心地よい揺れ。そして、背と臀部に触れる少し固めの感触。今は瞼を閉じているのか周囲は暗く、体に感じる一定間隔の振動と音しか伝わってこない。しかし、これらの感覚には覚えがあり、自分が何処に居るのかも大体予想はできる。僕は視覚からも情報を得ようと、瞼を開けた。
ぶわっと入り込んできた眩しさに反射的に瞼を閉じてしまう。じわりと広がる痛いような刺激が落ち着いた頃、僕は再度ゆっくりと開いていった。うっすらと開けた視界に入り込んできたのは、数人分の足。僕はもっとよく確認しようと、瞼を全開にして周囲を見渡してみた。
どうやらここは、予想した通り電車の中みたいだ。しかも満員で、みっちりと人が詰まっている。人の隙間から少しだけ覗く車窓からは日の光は射し込まず、暗い中に時おりぼんやりとした赤い光が射し込んでいる。電車は電車でも、これは地下鉄なのかもしれない。
だけど、妙だな。僕はいつ、この地下鉄に乗り込んだのだろう。この狭い車内を埋め尽くす人たちの似たような格好から、通勤か帰宅ラッシュのように思える。でも、僕は通勤に地下鉄は利用していない。それに、普段なら持っているはずの鞄も手元にはない。そもそも、この地下鉄は何処行きなんだろう。
「……なんか、変な感じだな」
さっきまで何かをしていたような感覚は残っているけど、それがいつのことなのか曖昧で何だか気持ち悪い。それどころか、体も自分の物じゃない感覚がする。まるで、長いこと眠っていて、目が覚めたら別の体に意識が入っていたみたいな感じだ。
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