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僕はもう少し現状を詳しく知ろうと、電車内をもう一度見渡してみた。
長椅子に座る体に伝わる振動から、電車自体は走行しているようだけど、相変わらず車窓から見えるのは時おり射し込む赤い光だけ。そこからは何の情報も得られない。外からの情報獲得を諦めた僕は、今度は車内にいる人間には意識を向けてみた。ここにいるのは皆、似たようなスーツに身を包んだ男ばかり。しかし、男ばかりというのも微妙に不思議な光景だな。これだけ人が乗っていながら、その中に女性が一人もいないなんて。
「……あれ?」
男ばかりの乗客を見ていて、妙なことに気づいた。
……何か、僕に似ている。
目の前に立つ男の顔を見て、親近感というか既視感というか、妙な感じがした。だけど、それはこの男だけじゃなかった。この車両に乗っている乗客全てが、僕と似た顔立ちをしていたのだ。
「……なんだ、これ」
自分のおかれている状況に、少しばかり不気味さを感じてしまう。そんな時、僕の肩に何かが触れた。指先でちょんちょんと軽くつつくものだったけど、自分を取り巻く状況におののいていた僕は、思いのほか驚いてしまった。「わっ」と、思わず声が出て、体がびくりと跳ね上がった。そして、その勢いのまま、肩をつつく隣の人間に顔を向けた。
「こんにちは」
顔を向けると、隣に座る男は肩に置いていた指をどけ、ニンマリと笑いかけてきた。
「あ……こんにちは」
反射的に挨拶を返すが、意識はすでに別のものに向かっていた。僕はじっと目の前の顔を眺める。やはり、彼も僕と似ている気がする。でも、僕はこんな顔だったけ? なぜか、そんな矛盾した感想が出てきてしまい、再びもやもやとした気持ち悪さが甦ってくる。
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