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「アナタと私が似てることが不思議ですか?」
「えっ……?」
唐突な問いかけに、咄嗟に返答できなかった。だけど、隣の男は返答を待つことなく続けざまに問いかけてきた。
「自分がどうして此処にいるのか分からなくて気持ち悪いですか?」
まるで僕の頭の中を覗いているみたいに、隣の男は問いかけを続ける。
「自分が何処から来て、何処に行くのか分からなくて不安ですか?」
立て続けの質問攻めに虚を突かれてしまい答えに困っていしまうが、隣の男はそんな様子に構うことなく、また捲し立てるように話しかけてくる。
「私はね、アナタであってアナタでない存在。そして、アナタは私であって私でない存在なんです」
「……は? 僕であって……僕でない?」
訳の分からない答えに首を傾げていると、僕とよく似た顔をした隣の男はクスクスと笑う。
「ここに居る人はね、みんな同じなんです。アナタであってアナタでない存在」
全くもって理解不能なことを言う隣の男にヤバイ空気を感じ、僕は距離をとろうと僅かに腰を浮かせた。しかし、もう一方の隣にも男がどっしりと腰をおろしていて、距離をとることはできそうになかった。ならば、席を立ってしまおうかとも考えるが、この電車内には身動きがとれないほどに人が詰まっている。もう、この場所からは1ミリも動くことができない状態だった。
「無理ですよ。私たち個人の意思で、この場所からは出ることはできませんよ」
僕の僅かな動きを察知し、隣の男は言う。
「ねえ、どうしてここに居る人たちが自分と似ているのか気になりませんか?」
そして、再び最初の疑問へと戻っていく。
「……ええ。気になりますね」
この場所から逃げ出せないと言うことは、この男からも逃げられない。そう悟り、僕は仕方なく隣の男の問いかけに反応してみた。
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