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「……それにしても、ここが地下鉄。それは何とも私たちに合った場所ですね」
「と、言うと?」
「電車という物は人生の分岐を現す物です。その中でも地下鉄は暗闇に覆われ先が見えないことに不安を抱きながらも、ある目標を実現したいという願望の現れ。そして、自分が何を目指しているのか知ろうとする意思の現れです。本当に今の私たちにピッタリの場所ですね」
隣の男は感慨深く語り、一人納得したように頷く。かたや、僕の方は言っている意味がさっぱり理解できず首を傾げるばかりだった。
「ところで、アナタはこの状況に疑問を抱くことはありませんか?」
「はっ? 疑問?」
何を今さらと、唖然としてしまう。はっきり言えばぎもんだらけで、こいつにその疑問を答える意思があるのなら、聞きたいことは山のようにある。だが、これまでのことを考えれば、それは怪しい。しかし、取り敢えず何かを聞いてみようかと、色々と考えてみる。
……まあ、やっぱりと言うか、隣の男は僕の質問を聞くことなく話し始めてしまう。
「まあ、色々とありますよね。では、手始めにあちらを見てください」
指したのは、別の車両へと向かうための通路だった。そこは扉が閉められ、完全に此方との空間が遮断されている。でも、扉が閉まっているなんて、別に疑問に思うことではない。ただ、扉の向こうは少し妙だった。
「向こうの車両は随分がらんとしていますね」
そう言うと、隣の男も「そうですね」と、感情なくあっさり言った。
扉の向こうは人影もなく、がらんとしていた。僕たちの居るこの車両は身動きが取れないほどにギュウギュウに詰まっているのに、閉められた扉の向こうは本当に空っぽなのだ。
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