「死にたいって思ったんだ」

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「そういえば、あなたはどこから来たのですか?そっちは自分の教室じゃないと思いますけど」 ぎくりと僕の体が固まる。さてどのような言い訳でこの質問をかわすべきか考えなくてはいけない。僕がやって来た方向には屋上へ続く階段と理科室、そしてその準備室がある。屋上の話は避ける必要があるし、理科室なんか学校生活の中で授業以外訪れることはないだろう。なので僕は適当にはぐらかすことにした。 「お腹の痛みを和らげるために学校の中を散歩してたんですよ。あまり行かない場所を見ていけば気が紛れるかなって」 山田先生の目が鋭くなる。これはどう見ても疑われている。僕は極力動揺する姿を隠すために笑顔を崩さずに話を変える。 「そういえば、時計を見ていないんですけど、もうホームルームは終わったんですか?」 外は少し夕日が指している。まばゆい光が僕と山田先生の横顔を赤く照らす。日が当たる部分はほのかに熱を帯び、夏の終わりだというのに日焼けをしてしまう気がした。 「とっくの昔に終わりましたよ。席が空いていたのはあなたの場所だけ。副担任も困っていたので、今後は気を付けるようにしてください」 それでは、と言って山田先生は元の道に戻っていった。平べったい室内靴でカツカツと音を立てて歩いているため、それが僕を攻め立てているのではないかと感じた。僕よりも10センチほど背の高い山田先生は近くで見るとかなり威圧感を感じる。また、きれいな顔立ちと鋭い瞳が氷の女王のように感じさせるため、威圧感はさらに大きい。 僕は固めていた表情を崩して深く息を吐く。どうやら誤魔化すことができたようだ。この学校の天敵と言えば山田先生くらいのため、上手く問題を避けることができ安堵が僕の体に広がる。
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