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 弥美彦(やみひこ)は、ドアノブを捻った。  扉を開けると、そこにはとある女性の写真が壁中に張り巡らされていた。壁に貼りきれなかった写真は、僅かな足の踏み場を作りながらも、地面にも敷き詰められていた。 「可乃子(かのこ)、愛してるよ……」  弥美彦は、足元にあった、笑顔の写真を取り上げて、可乃子と呼ばれる女性の写真と口づけをした。それはそれは長い口づけを。  そして、肩を動かしながら大きく息づく。  興奮しているようだ。それは、本人にも理解出来た。 「はあぁ……どうしたら君と近づけるだろう。君のプルンとした唇に、僕の唇を合わすことが出来るだろう。可乃子……好きだよ、可乃子」  そんな弥美彦を見て思わず、「うわっ」と声を零した少女。弥美彦の妹の志保(しほ)だ。  志保は、写真と何度も口づけを交わす兄を見て呆れながらも、惨めな姿の兄に声をかける。 「兄さん、可乃子ちゃんって確かお金に困ってるんじゃなかったっけ」 「ああ。昔の彼氏が借金作って逃げたらしくてな。その借金を払わされているらしい。不憫だよな……」 「んで、あんたは、大企業に勤める社長だ。これを利用するのよ」 「と言うと?」  此処まで言っても気づかない弥美彦。  志保は、「アンタそれでもストーカー?」と言いながらも、決定的なアドバイスをする。 「だからつまり、お金に困らせない代わりに結婚してくれって言えば良いじゃんよ!」 「……な、成程ーっ! ……そしたら、そしたら可乃子は俺の物……なん、だよね。げへへ」 「んーまぁね。問題は、そう上手く行くかなんだけど」  志保の独り言には聞く耳も持たず、弥美彦は急いで可乃子に会いに行く準備を始めた。
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