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弥美彦は、サングラスをかけ、深めの帽子を被り、真っ黒なマスクを着けて可乃子の下へと急いだ。家は確か、あの大きな公園を真っすぐ通ったさきにある平屋だ。確か家賃は四万円。俺の家に比べれば、とても安い方だと思う。
ちなみに、彼女は一人暮らしで、両親に迷惑はかけたくないと、借金は自ら働いて返しているそうだ。こんな彼女なら、断ることは無いだろう……多分。
仮に断られたらどうしよう……なんてことは、暗くなるだけなので考えないことにしよう。
なんてことを考えていると、もう家の前にいた。
「ヤバい。対面するなんて、初めてだ。ドキドキする」
ピンポーン。チャイムを押したが、返答無し。
「そうだよな。いつも仕事頑張ってるんだからな。いるわけ無いか」
一旦帰ろうとしたその時、弥美彦の肩にポンと手を乗せられた。もしやと思い振り返ると、そこにいたのは探していた可乃子だった。それも、眉間にしわを寄せて。
「……あの、空き巣……ですよね」
「ええっ!? ち、違います」
愛おしき者の登場と、思いもよらぬ質問に、弥美彦は動揺が隠せない。その態度がまた怪しがられてしまう。
「……うちには盗む価値のある物なんてありませんよ。この通り、平屋ですから」
「あ、あの。違うんです」
「だってその恰好! 明らかに怪しいじゃない」
そう言って、可乃子は弥美彦の服装を、上から下まで引っ張るように指さした。
ストーカーゆえ、普段から目立つのが苦手だったので来ていた服装だったが、この服装の所為だけで犯罪者と疑われるとは。弥美彦は、「脱ぎます脱ぎます!」と、急いで身に着けていたものを外し、全身を隠すコートを脱いだ。
すると、本来のシンプルなワイシャツ、ジーパン姿の弥美彦を見た可乃子は、思わず口をぽかんと開ける。
弥美彦と言えば、容姿端麗で、しゃんと立てば背も百八十七はある。つまりは、見た目だけで言えば、完璧なイケメンだったのだ。可乃子が驚くのも無理はない。
「あの、この通りで。第一物取りする程お金困ってないですし……ほら」
弥美彦が真っ黒な長財布を取り出すと、それを開いて見せる。そこには、少なくとも十万以上は入っていることが、可乃子にも理解出来た。これには、可乃子の目の色も変わる。
その可乃子の目を見た弥美彦は、脈ありと感じたようで。
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