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 その後、可乃子が連れてこられたのは大きな屋敷だった。確かに、金持ちなのに間違いは無いようだ。  それからずんずんずんずん、彼に手を引かれるがまま、荘厳な室内をぼぅっと眺めながら歩いていく。  やがて止まった先は、大きくて重たそうな扉の前だ。扉の前にいた執事が戸を開けると、目線の先には、椅子に座った、二人の男女がいた。まるで、城の王と女王のようである。 「パパ! ママ! この人と結婚するよ!!」 「ほう、そうか。お前ももう二十四だしな。仕事が出来ない分、せめて幸せな家庭でも築いて世間にアピールしておくれ」 「そうね、それが良いと思うわ」  息子が突然連れてきて結婚すると言ったのに、何だろうこの親は。可乃子は思った。 「有難う! それじゃあ行こう、可乃子っ」 「は、はい」  今度は手を恋人つなぎにし、弥美彦は自分の部屋へと駆け出した。  ・ ・ ・  可乃子は驚愕した。  確かにストーカーの心理とやらを何となくは想像出来ていたが、実際に見てみると、その衝撃はとてつもなかった。 「……この写真、全部私じゃない。しかも、どうやってこんな色んな場所に」 「まぁ、金持ち一家の息子って言っても、何にも出来ない暇人だからね。好きな人追っかけるのは容易だったよ。それより……」  弥美彦は可乃子の手首を強引に引っ張り、ベッドへと倒した。そして、倒れた可乃子の上に乗り、荒い鼻息を可乃子の首元に吹きかける。 「夫婦だもん、良いよね……」  可乃子は鼻息を止めるかのように弥美彦の鼻に手を当てて起き上がる。 「駄目よ。結婚するまえからこんなこと、いけないわ。お父さんだって言っていたはずよ。世間に良いアピールをしろと」 「……じゃあ、キスだけでも」  ベビーフェイスで可愛らしく、且つ、凛々しい眉をしたイケメンに迫られ、悪い気はしない可乃子。一度は目を逸らしたものの、なるようになれと、二人は口づけをしあった。  ・ ・ ・  長い口づけを終えた後のこと。可乃子は、今まで聞きたかったことを弥美彦に尋ねた。 「どうして、私のことが好きなの? 出会いは何?」 「……覚えてないんだね。前に、君に道を聞いた時、君は笑顔で案内してくれたんだよ。わざわざ一緒に歩いてね」  可乃子の職業はツアーコンダクターだ。職業柄、どうしても人に道を聞かれると直接案内するクセがあった。
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