第1章

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 ほぼ何の説明もないまま労働契約書にサインさせられ、はっきり言って法令違反だろと思うが、ようやく暁良は網から解放された。 「はあ」  網から這い出して立ち上がると、やっと連れて来られた場所が確認できた。それにしてもまあ、よく散らかっているものだと思う。路人はどう考えても科学者だというのに、やって来た場所は倉庫と変わらないくらいに物が溢れ返っている。しかも何でもかんでも雑多に置かれていて、秩序というものがまるでない。まさにカオスだ。研究室をイメージしていた暁良にすれば肩透かしである。 「やあ。では改めまして。俺は一色路人。で、あれが桜井瑛真」  部屋の中をきょろきょろと見る暁良に、路人はのんびりと挨拶をして無理やり握手までしてきた。そしてあのきつそうな女性の名前も教えてくれる。 「はあ。陣内暁良です」  改めて自己紹介って変だろと思いつつも、これからしばらくは付き合わなければならない相手とあって調子を合わせる。 「この間の子は三日で逃げたわよ。また同じだと思うけど」  瑛真は挨拶を交わすこともなく、そんなことを言って反対を表明し続けている。やっぱりきつい性格のようだ。美人なのに勿体ないよなと暁良は不満に思う。 「あの、三日で逃げたって」  それよりも以前にバイトがいて、さらに三日で逃げたという事実が恐ろしい。今、俺は三日間はここにいなければならないことになったのだがと、瑛真の顔を窺ってしまう。 「そのままよ。ここ数日、路人は科学者狩りをやっている連中を捕まえるための機械を開発して遊んでいるのよ。その度に誰か捕まえてきて、丁度いいバイト君を作ろうしては失敗。人使いが荒い上に変人の相手とあっては逃げて当然だけど」  本人を目の前に瑛真の言葉は容赦ない。言われた路人は話を聞いていないのか、のほほんとしたままだ。
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