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「……なんだよ」
「なんやなんや、お前なんだかんだ言うてオレのことえぇ男やと思ってたんか」
「んなっ!? 違っ!!」
えぇねんえぇねん分かっとぉで、とニヤニヤ笑ったまま肩を叩かれて、今度こそ本気で掴みかかろうとしたのに
「──あぁ、でも、たぶん一番の理由は稔だと思うけどな」
「あぁ? オレぇ?」
「なんで」
ふと何かを思い出した表情になった今藤の方を振り向いたら、いや、と一瞬歯切れ悪く躊躇って「オレが言ってる訳じゃねぇからな」と念を押されたあと。
「渉ってさぁ、稔のこと大好きだもんねぇ。そうそう、稔もさぁ渉のこと大好きだよねぇ。間割って入るとか無理だよねぇ」
さっきよりも遠慮がちながらに、女子の声真似をした今藤のその台詞にあんぐりと口が開く。
「なに、それ……」
「だから、オレが言ってる訳じゃねぇってば」
「……それでか」
「何納得してんだよお前ぇぇっ」
「アホ、誤解すんな。時々、声かけた女子に言われとったんや。『えぇ~、渉に悪いよぉ』やて。なんのこっちゃサッパリ分からんかったんやけど、そういうことか」
なるほどなぁ、と顎を撫でた稔が真面目な顔してこっちを向いた。
「な、なに……」
「すまん。お前が可愛いのは認めるけど、オレは女の子が好きや。悪いな」
「うるっせぇ! オレだって女の子が好きに決まってんだろ」
「いっ、たッ、……おまっ、加減せぇよッ」
叫ぶと同時に稔の頭をベシンと叩き落としたら、
「ふふ、相変わらず仲良しだねぇ」
場にそぐわない軽やかで華やかな笑い声が聞こえてきて視線を向けた。
「……なんやエミ、どないしてん」
おー痛、と頭を擦りながら稔が声をかけたのは、同じ学年で同じ学部の藤宮恵美璃だった。学年どころか大学内で一番と言ってもいいくらいに可愛い恵美璃が稔と仲良くしているのは、なんとなく似合うような似合わないような美女と野獣はさすがに稔が可哀想だしでも認めたくないし──要するに嫉妬してしまうくらいには、似合っている。
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