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(くそっ……なんでこんなことに……ッ)
持て余す痛いほどの熱。前屈みになって駆け込んだトイレの個室で、ぐったりと溜め息を吐いた。
何かの間違いであって欲しかった。
こんな情けないほどに怒張した息子のこうなった理由が、まさか男の匂いを嗅いだせいだなんて信じたくもなかった。
ドクドクと脈打つそこの熱さと言ったら火傷しそうなほどで、初めて自分で触ることを覚えてから今までで一番熱くて一番大きい。
(勘弁してくれ……)
頭を抱えていきり立ったそこから目を逸らしても、腹の底をくすぐる快楽からは逃れられない。こうまでなってしまっては、ヌくよりほかないことは分かっている。
恐る恐る触れた何時にないほどの熱に呻きながら右手を動かす。思い浮かべるのは、こないだAVで見たナイスなバディの薫子ちゃんだ。
そうだ。こんな時一番に思い浮かべるのは、女の子だ。オレはなんにもおかしくない。きっと、疲れが溜まっていたんだ。たまたまアイツが、女の子が使うシャンプーのような花みたいな香りを纏っていたから。だから、女の子を連想してしまっただけだ。
誰があんな、固そうな男に……でもアイツ、あんまりゴツゴツしてなくて、しなやかなんだよな。体も小さいし。抱き抱えたらちょうどいいサイズで……髪もふわふわだし、顔もどっちかっていうとかわい……
(違う違う違う違う違う……っ!)
ブンブン首を振ったのに、止める間もなく白濁が噴き出してくる。──アイツの顔と体を思い出した瞬間だった。
(勘弁してくれってホンマに……っ)
泣き出したい気持ちのまま、飛び散ってしまった白濁をトイレットペーパーで拭き取る情けなさといったらなかった。
打ちのめされたままゆらりとトイレから出る。
「あれ、稔? どうしたの? 体育じゃなかった?」
廊下の向こうから歩いてきたのは、エミだった。
「あぁ、うん……ちょっとな……」
「なぁに? 暗い顔しちゃって」
キョトンとした顔が近付いてくる。
「あほ。無防備に近寄んなて」
「なぁによ、拗ねてんの? 誰にでもこんな距離で近付いたりしないわよ」
「あほが」
「ッ、ちょっ!?」
顔を逸らしたのに追いかけてきた。だからエミが悪い。そんな風に言い訳をして、細いのに柔らかくて、温かくていい匂いのするエミを腕の中に閉じ込めて
「なに……」
「……」
「ちょっと、稔?」
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