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肩にすがるように顔を埋めたのが間違いだった。
(この、におい……)
香ったのは、さっき渉から香ったのと同じ匂いだ。
渉とエミに何かあったのだろうか。──あの渉と?
そう思った瞬間に身体中の血が沸騰して、一点に集中した。強烈で最悪な自覚だったのに、まだ信じたくなかった。
「ちょっ……稔!?」
嘘でしょ、とさすがにたじろいだエミが腕の中で身を捩る。
「無防備に近付くなて言うたやんけ」
吐き捨てるように呟いて強引に唇を塞ごうとしたのに、寸でのところで顔をそらしたエミが燃えるような目で睨み付けてくる。
「ちょっと……!」
「……なんで……」
「なに」
「なんで、お前……」
渉の匂いすんねん、と呟きかけて唇を噛んだ。
「……くそっ……なんやねん……」
「……何……? あんたなんか変……」
「うるさい黙れ」
「ちょっとあんたねぇ……──嘘でしょなんで……」
文句を言おうとしたらしいエミが、目を見張って絶句する。
一瞬で我に返ったらしいエミは、緩んでいたオレの腕の中からすり抜けた後で、こっち、とオレの腕を引いて人気のなかった教室に匿ってくれる。
「なんなのよもう……」
どうしたの、と優しくなった声に耳を撫でられて、ふるふると首を振るのに合わせてパタパタと雫が床に落ちた。
遠慮がちな手のひらがそっと頭を撫でてくる。
「なぁ……」
「何よ……」
「シたらアカン?」
「……あんたそれ、誰でも良くて言ってるのモロバレだからね?」
「……すまん」
「あまつさえ認めるんじゃないわよ、ホントに。嘘でも否定しなさいよね、全く……」
ぷりぷり怒ってみせる口振りとは裏腹に、優しい手のひらは頭を撫で続けてくれている。それに甘えることにした。
「なぁ……アカンか……」
「…………ここで?」
「……」
黙りこんだオレの返答を数秒待ったエミは、諦めたように溜め息を吐いて苦笑いする。
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