act.2 目を逸らした先にあるもの

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「さすがにあたしも教室ですんのは初めてだわ。……最中に誰か来たら、責任取ってよね」 「……すまん」  強引に合意を取り付けて、エミのスカートの中に性急に手を入れる。  予想外に濡れそぼったそこは、既に柔らかい。  ギクリと胸が跳ねたのは、やっぱり渉とシていたのだろうかと疑ったからだけれど。 「……ねぇ、分かったかもしんないけどさ。……あたし、淋しいと誰とでもシちゃうタイプなのね。……でもさ、同じ学校とかだと面倒臭いことになったりするじゃない? だからずっと避けてたんだよね」 「……すまん」 「いいよ別に。まぁ稔ならいっかなって。……でさ。……時々さ、あたしから誘ってもいい?」 「…………それは……」 「稔がさ。シたい時、誘ってくれたらいいし。あたしがシたい時、あたしから誘うし。……ギブアンドテイクってことで、どう?」  見つめてくる目は、こんな状況にあってさえ真っ直ぐだ。 「……えぇんか、ホンマに……」 「いいよ。あたしのこと好きじゃない人がいいんだもん」 「……オレが言えた義理ちゃうけど……自分のこと、」 「大事にしろとか言ったら殴る」 「……」 「いいのよ。あたしは、こうすることで自分を守ってるんだもん」  するりと片袖を脱いだその二の腕の内側に、消えかけの傷がたくさんある。 「お前……」 「抱く気失せたなら言ってよ。何もなかったことにして帰るから」  毅然としながらも、揺れた目。 「きっとさ……似てるんだよ、たぶん、あたし達」 「……どこが」 「こんなことしたって満たされないって分かってるのに、一瞬だけでも目を逸らしたくて、逃げちゃうの」 「……」 「だって、一瞬だけでも楽になりたいんだもん」  ふい、と顔をそらして声だけで微笑(わら)ったエミを抱き寄せて 「……大事に抱く。えぇか」 「いいよ」  振り向いて笑った顔は、いつものエミの笑顔だった。  ***
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