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大学2年の梅雨明けのあの日以来、お互い淋しい夜に一番に連絡する仲になった。
今日のように学食で堂々と声をかけられたのは初めてだったけれど、廊下ですれ違い様に視線を送りあって夜にエミが家の前で待っていることも多々あった。周囲にはなんとなく付き合っているように見えているらしい。ただの友達と訂正することもあれば、想像に任せることもある。
「ねぇ……」
「んー……?」
「渉ってさ、可愛いね」
「…………なんや急に……」
「今日、凄く一生懸命稔のお好み焼き褒めてたから」
「……アイツ、食い意地張っとるからな」
そっと視線を外して布団に潜り込む。
「そんな風に思ってないくせに」
「……」
「ねぇ、稔。気付いてた?」
「何がぁ?」
「あたし、最近、傷減ったでしょ」
「…………あぁ、確かに」
ひょこ、と布団から顔を出して二の腕や太股をしげしげと見つめる。
「だからねぇ、もしかしたらもう、稔に連絡しないかもしれない」
「…………そうか……。……えぇ奴か?」
「そうだね。凄く優しい人」
「……そうか」
にこり、といつもよりも幸せそうな顔で華やかに笑ったエミが、ちょん、とオレの頬をつつく。
「ねぇ、聞いていい?」
「……なんや」
「あの日さ、なんで泣いたの」
「……」
「渉となんかあったの」
「…………なんで」
「だって渉のこと好きでしょ」
ズバリと言い当てた声にはからかう音色はなくて、ただ静かにオレの心に染みていく。
「…………お前……アイツと同じ匂いしたんや……」
「……におい?」
「……アイツとなんかあったんか思って、ちょっと動揺した」
「…………あぁ、そっか。そりゃそうだよ。だって同じシャンプー使ってるはずだもん」
「──はぁ?」
種が分かって面白くなったのか、ふふふ、と弾んだ笑い声の後
「渉ってさ、猫っ毛の癖っ毛じゃない? あたしも実はそうでさ。毎朝めちゃくちゃ大変なんだけどね。渉とたまたま二人きりになった時に髪の毛の話になって。『シャンプー何使ってんの?』って聞かれて教えてあげたんだよね。そしたら次の日興奮しながらあたしのとこまで走ってきてさ、『あのシャンプー超いいな! 教えてくれてサンキュー!』って。……仔犬みたいで可愛かったなぁ」
「…………なんじゃそら」
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