act.2 目を逸らした先にあるもの

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「渉とは何もしてないよ。大学の人とは稔としかしたことない。最初に言ったでしょ」 「…………そうか……」 「安心した?」  慈愛に満ちた笑顔を向けられてモソモソと頷く。 「ねぇ。渉には言わないの?」 「……言うたら終わりやろ。……ちゅうか、気持ち悪ぅないんか、こんな話」 「別に? 誰が誰を好きになっても自由じゃない? まぁ、女子の方がその辺は柔軟かもしれないけどね」 「……さよか」  ははは、と漏れた乾いた笑いの後、不意に涙が込み上げてきて堪える間もなく頬を伝った。 「みのる……」 「あほ。そっとしとけ。……くそ。お前の前やとユルユルやなオレ」  ぷいっとエミから顔を背けたのに、エミの相変わらず柔らかい手のひらが頭を撫でにくる。 「……そんなに好きなのに、よく我慢出来るね。……晩ごはん、よく一緒に食べてるんでしょ?」 「……我慢するしかないやろ、こんなん……自分でも気持ち悪いのに」 「あのねぇ。あたしに自分のこと大事にしろとか説教しようとした奴が何言ってんの。気持ち悪いとか否定してるから、こんなことしちゃってるんでしょ? しかも、あたし以外にも山ほど手ぇ出してるでしょ。知ってるんだからね」 「……」 「あんた、たぶんあたしよりタチ悪いわよ。一瞬楽になっても全然満たされないって、もう分かってるくせにいつまで自分のこと認めないつもりなの?」  抉る言葉のわりには、声が優しい。  だって、だの、そんなん、だのモゴモゴと口の中で呟いていたら、頭に乗せられたままだった手がぽむ、と優しく叩いてくる。 「って、言われたんだぁ。……あたしねぇ、中高で苛められてたの」  突然の告白に虚を突かれて、エミの方を思わず振り返る。へへ、と照れ臭いと悲しいが混じったような複雑な顔で笑ったエミが、もぞもぞとこっちへすり寄ってきて肩に顔を埋めた。 「大学では絶対苛められる側にならないようにって、凄く……ものすっっっごく無理してた。……明るくて、サバサバしてて、ぶりっ子しないけど愛されるキャラ、みたいな? ……でもさ、すーごい疲れるの。で、気付くと色んなトコが血だらけになってた。……無意識なんだよね、ほとんど。でも、一瞬だけ凄く楽なの。……一瞬なんだよ、一瞬。でもその一瞬が欲しくていっぱい傷つけてね。もう痛いのヤダなって思うのにやっちゃって」
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