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遠くを見つめる淋しそうな目が不意にこっちを向いて、きゅっと下がった眉毛の下で淋しく笑う。
「……そんな時にね、コイツ絶対あたしのカラダ目当てだなってあからさまに分かる奴に声かけられて……でもまぁいっかなぁって。断るのも面倒だったし、なんかもう、全部どうでもよくって。……そいつはそんなに上手くも下手でもなかったんだけど……なんていうか、人肌? 体温ていうの? あったかくってさぁ……なんか、満たされたんだよね、ちょっとだけ」
「…………そうやな……」
「でしょ。……でも、ダメなことって言うのもさ、分かってるわけ。だから、定期的に爆発しちゃうみたいに傷つけちゃうの。……そういう変なループにハマってた時に、稔とシちゃったんだよね。稔が泣くからさぁ……しょうがないなぁって思っちゃって。……でもね、初めてだったんだよねぇ。……必要とされてるかもって思ったの。稔に呼ばれて会うたびにさ、今の一瞬だけはあたしが支えてるのかもなって、初めて思ったの」
へへへ、と笑ったエミがオレの前で初めて鼻を啜り上げた。
「初めてだったんだよ。……自分もそんなに捨てたもんじゃないのかもなって、思ったの。……それからね、なんていうか……まぁ、その……今の人に出会ってさ? なんか……やっと信じられたんだよね、人の言葉。ホントにあたしのこと、心から大事にしてくれてるんだなって信じられた」
稔のお陰だよ、と泣きながら笑ったエミの頬を指先で拭う。
「あほ。えぇ話にすんな。オレはヤりたいようにヤッとっただけや」
「うん知ってる。でもそれはおあいこだもん」
イタズラが見つかった子供のように無邪気な照れ笑いを浮かべたエミが、真っ直ぐにオレを見つめた。
「ねぇ。渉に伝えなくても別にいいけどさ。自分の気持ち否定すんのはもうやめたげなよ。……好きな気持ちはさ、大事にしていいと思うよ」
「あほ。自分が幸せやからって説教すんな」
「説教じゃないもん忠告だもん。渉の前で爆発しても知らないからね」
「……フラグ立てんな」
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