act.3 まだしばらくは今のままで

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「うンめぇ~。……やべぇ、腹減ってた分、いつもよりも旨い~」  やたら感動しながら、まるでリスかハムスターのごとくもぐもぐとお好み焼きを頬張る渉に、お茶を注いで出してやる。 「……誰も盗らんからゆっくり食え」 「だって腹減ってんだもん」 「分かっとる。喉詰めんなよ」  こう美味そうに食べてもらえると、好きだの嫌いだのに関係なく嬉しいものだ。──だからこれは、別に友人関係でもおかしくない感情だ。  そんな風に自分の心に微妙に蓋をしたり目を逸らしたりしながらこの関係を続けて、そろそろ1年半くらい経つだろうか。渉から晩ごはんを一緒に食べればいいじゃないかと提案された頃は、まだ本当にただの友人関係だった。  同じ釜の飯を食った仲とか言うけれど、二人きりでの食事を重ねて、大学でも行動をともにすることで自然と惹かれていったのだと思う。いつからという自覚もないまま、気付けば渉に対して友情では片付けられない感情を抱くようになっていったのだ。  恋なのだとはっきり自覚した時に、せめて二人きりで食事をするこの時間だけでもやめた方がいいのではないかと悩んだこともある。この天然人たらしな童貞は、人との距離がやたら近い。  やたらベタベタ触られる、肩を組まれる、抱きつかれる、無防備に家に来て寝泊まりを繰り返す……等と挙げ始めれば切りがないほど、理性を試される場面が多々あった。  人の目があればまだ堪えられる。けれど、家で二人きりの食事の場は自分でひたすら堪えるしかない危険極まりない状況だ。  万が一酒が過ぎて、朝起きたら二人とも素っ裸でヤることヤッてたらしいですが記憶はありません、なんて展開を迎えてしまったら目も当てられない。──こっちがそんな風にヤキモキして不自然にならない程度に食事の回数を減らそうとしたのに、この食い意地の張った天然人たらしは約束もなく家を訪ねてきては飯をねだるようになったのだ。
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