act.3 まだしばらくは今のままで

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 枕元のスマホの着信を知らせる振動に、瞼を抉じ開けた。大して明るくもない室内なのに、光が目に染みて痛い。あぁ、風邪だなと他人事のように思いながら重たい腕をのそのそと動かしてスマホを手に取って、ディスプレイに表示されたメッセージのアイコンをタップする。 『どこにいんの』  それだけ書かれたメッセージは、悪友からだ。 『風邪ひいた』  痛む頭と開かない目のせいでそれだけ打つのが精一杯で、送ったら力尽きて目を閉じてしまった。その後、うるさく連打されるチャイムの音に目を覚ましたのは、陽も高く上った昼時だった。  目を閉じてから一瞬しか経っていないと思っていたのに、随分深く眠り込んでいたらしい。ほんの少しだけ軽くなったような気がする体を引きずってインターホンの受話器を上げた。 「はい」  寝起きと風邪のダブルパンチで掠れきった声でぶっきらぼうに放ったら 『うわ、なんだその声。別人じゃん』 「……渉?」 『おう。午後の講義ぶっちぎって来てやったんだぜ、ありがたく思えよ』 「なんじゃそ、ら、ッゲホッ、っ」  尊大な物言いに扉の向こうでドヤ顔しているであろうことが簡単に想像出来て、くつくつと喉の奥で笑いが零れたら咳が誘発されてしまった。 『おいっ、大丈夫かよ!? ちょ、早く開けろって!』  繋がったままのインターホンから焦ったような声が聞こえてきて、命綱かのようにしっかりと受話器を握り締める。 「だい、じょぶ、やし……きょっ、は、か、えれ」 『ばっ、こんなん聞かされて帰れっかよ! 開けろ!』  咳の合間に呟いた台詞には当然のように拒絶が返ってきて、さらにはドンドンとドアを叩く音も追加された。渉の性格上、開けるまでは続けるだろうことが簡単に予想できて、ご近所さんへの体裁も重んじれば開けるより他なかった。 「……よかった、生きてた」 「──っ」  開いたドアの向こう側に、涙目の渉の顔がどアップであった。  いつもなら自分より頭1つ分低い場所にあるはずの渉の顔が、ヨロヨロになって背を屈めている今、いつになく近くなっているのだと気づいてギクリと胸が跳ねる。  そんなこちらの動揺など気にもとめない渉は、こちらの力が入らないのをいいことにグイグイ押し込んできて、結局玄関の中へ入られてしまった。
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