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「お前、ひっでぇ顔色だな。飯食ったのか? 薬とかは?」
「さすがに飯作る気力ないし、薬買いに行く元気もなかったわ」
「だろうと思ったんだよ」
ふふん、とドヤ顔をキメて笑った渉が、ずい、と大きめのビニール袋をこちらへ突き出してくる。どうやら近所の大型スーパーのレジ袋らしいと気づいた。
「レトルトのお粥とか買ってきた。……後、スポドリとか。薬は買ってこなかったから、後でちょっと買いに行ってやるよ」
「……すまん、助かる」
「おぉ、どうした殊勝だな」
ニヤニヤ笑った渉が、けれどそのニヤニヤ笑いを意外なほどすぐに引っ込めて、ほらほら、とオレの背中を押した。
「病人は寝てろ。勿体無くもオレ様が甲斐甲斐しく世話をやいてやる」
「……アホ、何様じゃ」
「だから、オレ様だって」
ぐい、と親指を立ててキメ顔をして噎せるような咳を誘発する迷惑な見舞い客を、けれど追い返す元気も──気持ちもなかった。病気で気弱になっているせいだと思いたかったけれど、これで見舞いに来てくれたのが例えば今藤や颯真だったら……きっと感染るから、と早々に帰したと思うのだ。たぶん、渉だからきっと追い返さなかったし、来てくれてホッとしたのだと──。
布団にやや乱暴に投げ込まれた後、やけに優しい手付きで胸の辺りをポムポムと叩かれて寝かしつけられながら、とりとめもなくそんなことを思っていた。
「──稔。起きれるか?」
落ちるように眠ってからどれくらいの時間が経ったのか。遠慮がちな声と優しい手のひらにピタピタと頬を叩かれてうっすらと目を開けたら、無防備なまでに近い渉の顔にまた胸が跳び跳ねるから体に悪い。
「飯出来たし、薬も飲なきゃだろ。薬、買ってきたから」
「あぁ……すまん、ありがとう」
よいしょ、と体を起こした拍子に額がひんやりと涼しくなる。そういえばなんとなく何かが触れているようなと手を伸ばしたら、冷却シートが貼ってあった。
意外なまでの細やかさに感動しながら、朝よりも随分と真っ直ぐ歩けるようになった足で、ゆっくりと机の前に腰を下ろす。
レトルトを温めただけらしいお粥とレトルトらしい卵スープに、スポーツドリンクのペットボトルが並んで置いてある。机の隅っこには買ってきてくれたらしい風邪薬も並んでいた。
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