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「……いただきます」
しみじみ有り難く手を合わせてスプーンを手にお粥を一口。薄味だが、食べられないことはない。レトルトは下手に味を足すのも危ないときがある。
「そうだ、リンゴもあるんだぜ~」
オレが黙々と食べるのを見守っていた渉が思い出したように呟いて、パタパタとキッチンに走ってリンゴを手に戻ってきた。
「お前……丸かじりせぇとか言うんちゃうやろな……」
「……あ~、やっぱり?」
てへ? と可愛くないテヘペロ顔を見せられて、その不格好さにまたしても咳き込んでいたら、分かったよぅ、と渋々キッチンへ向かった渉が包丁を持って戻ってくる。
包丁を右手に、左手にリンゴを持ってじぃっと見つめた後、よし、と意を決した声で気合いを入れた渉が、ギコギコと音を立てそうなほどぎこちなくリンゴに包丁を入れた。
「お、まえ……不器用なやっちゃな。……借してみ、危ないわ。お前にそんなことやらせたオレが悪かった」
不器用な手付きにハラハラしながら、思わず手が伸びるオレに
「るせっ、いいからお前は大人しくしてろ」
真剣な目付きで手元のリンゴを睨み付けて、ぎこちなく包丁を動かしたまま、こっちも見ずに怒鳴ったアイツは
「……っ、どーだ!」
可食部を随分と皮に持っていかれながらも、いびつなウサギを作って手渡してくれる。
その勝ち誇ったような顔と小さくていびつなウサギとのギャップが面白すぎて、盛大に吹き出してしまった。
「おまっ、こっ……っぁははは」
苦しい息の下でありがとうと掠れた声で呟いたら、アイツは憤りながらもぐいっとリンゴを押し付けてくれた。
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