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懐かしい夢をみたのは半生殺し状態でうつらうつらしていたせいだろうか。
後片付けをしてベッドに入ろうとしたものの、机に突っ伏したまま寝かせておいては翌日に支障もあるだろうと、純粋な親切心で渉を床に転がしてやったのがまずかった。
うん……、と。
渉の口から零れた吐息にぞくりと背中を走ったのは、紛れもなく欲情からくる震えだった。
誘うようにうっすらと開いた唇。もともと髭の薄い渉の顔は、夜になっても無精髭すら見当たらずにすべすべしている。日頃から童顔を気にするその顔は、寝顔となるとますます幼い。うにゃうにゃと何かを呟いて動いた唇は、まるで自分を誘って睦言を呟いているかのようにさえ見えてしまって──
「……ッ」
ハタと我に返ったのは、唇を塞ぐ寸前だった。ふんわりと漂ってきたお好み焼きの匂いに助けられた。
(…………あかん。もう二度と泊めん……。……泊めたとしても、オレより先に寝かせん)
先に寝るなとか関白宣言か、と頭を抱えてセルフツッコミを入れたら、ぐじゃぐじゃと頭を掻き乱しながら深呼吸を繰り返して冷静になれよと言い聞かせる。
春先のまだ肌寒い季節であることを心配して渉に毛布をかけてやって、なるべく渉を視界に入れないようにベッドに潜り込んだのに。
目を閉じたら渉の唇が誘うように蘇ってきて、情けなくて泣きたくなるほど欲が湧いてくるのだ。
とはいえ近くに友人がいる状況で処理をする訳にもいかずに、悶々と布団の中で長くて辛い時間を過ごすハメになってしまった。
寝不足で重く痛む頭を軽く振りながらベッドの上で体を起こす。時刻はそろそろ6時になろうとしていた。
今日はお互いに1時限目から講義がある。まだ起きて準備を始めるには早い時間だが、渉を一度家に帰さなければならないのだし、丁度いい。
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