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「…………なぁ稔」
「なんや」
「最近さぁ……なんか……なんつーか……怒ってる?」
「はぁ? なんでや」
「いや、なんか……その……女の子。……毎回違うし、オレのこと帰らせたがるし……もしかして、一緒に飯食うの嫌になったのかなって……」
出してやった食事に手もつけずに俯いたままモゴモゴと呟いた渉が、そっと顔を上げる。泣き出しそうな、まるで迷子の子供のように揺れた目と、視線がまともにぶつかって心も体も揺れた。
(だからなんでお前は……ッ)
無防備に人を煽ってくれるのだと、箸を折る勢いで握り締めながらゆっくり深呼吸する。
「……嫌と違う……」
「だったらその……なんで……」
お前が好きだからだよと、叫んでしまえたら楽になるのだろうか。
持て余す想いは爆発寸前で、エミの立てた言葉は踏むタイプじゃなくて時限性だったのかもしれないと途方に暮れるしかない。慎重に避けていれば避けられると思っていたのに、あんまりだ。
「別になんでもない。……女の子が毎回違うのはまぁ……オレがだらしないだけや。お前は真似すんなよ」
「オレがそういうこと出来ねぇと思って言ってんなお前」
ムッとした表情になりながらもまだどこか不安そうな目をしている渉から微妙に視線を逸らして、口から出るに任せて適当な言い訳を紡ぐ。
「……なんやほら……あるやろ。むしゃくしゃしたらヤリたなること。それや」
「……だから。むしゃくしゃしてるのって、……オレのせいか? って……」
「……ちゃう。……から安心せぇ」
視線を逸らしたままぶっきらぼうに呟いて、味もわからないままご飯を掻き込む。
「……じゃあ……また来ていいんだよな?」
「…………えぇよ」
「泊まってっても?」
「…………あぁもう、えぇよ好きにせぇ」
「……っ、やっぱ怒ってんじゃ~ん」
「怒ってへん。呆れてんねん」
お前にとっては多分ここが一番危険な場所やぞと、いっそ言ってしまった方がお互いのためなのだろうか。
なんだよ、と不貞腐れて尖った唇に噛み付いてやりたいと思っているなんて、想像すらしていないに決まっている。半泣き顔のままもそもそと食事に手を付けて、「くそ、美味ぇ」と悔しそうに呟く可愛さに、奥歯が砕けそうになるほど強く噛み締めて色んなものを堪えているなんて。
(思てぇへんくせに……)
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