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甘えるだけ甘えて、それ以上の可能性なんてこれっぽっちも見せてくれないくせに。
くそ、と呟きたいのはこっちの方だ。
いつもなら賑やかに過ぎるはずの時間がやけに重くて、やけに長い。
わしわしと残りのご飯とおかずを掻き込んで、ろくに味わいもせずに食べ終える。
「……早食えよ。……また、今日も来るから……」
「っ……やっぱり……もう、来ない方がいいのか……?」
「……だっから……!」
無防備にそういう顔すんな、と胸ぐらを掴んで怒鳴り付けたくなるけれど。
ピンポンとインターホンが鳴って、二人してビクリと肩を揺らした。
「…………来たみたいやわ」
「…………食う。ちょっと待って」
ふいっと力なく顔を逸らして同じようにわしわしと残りを掻き込んだ渉が、置いてあったお茶で何もかもを飲み込んだ後、
「…………また来ても……ホントにいいんだよな?」
「……えぇて言うとる」
「……明後日」
「……分かっとる。……何がえぇんや。詫びも兼ねて好きなもん作ったる」
「……考えとく」
「明日中やぞ」
顔を会わせないまま会話を終えたら、部屋の隅に投げてあった鞄を掴んで渉が家を出ていく。
すれ違いで入ってきたのは
「…………あぁ? なんでお前……」
「いい加減にしなよって言ったでしょ。沙紀を都合のいい女にしないでって」
「……」
怒りに満ちた表情のエミだった。
正座よ正座! 当然でしょ!
そんな風に始まったエミのお説教は、そろそろ20分以上になる。エミはクッションの上に同じように正座だが、苦痛の表情は見えない。こっちはフローリングに直に正座なだけあって、そろそろ足が限界だ。
「ホントに付き合うつもりだったなんて、信じられる訳ないじゃない。まだ渉のこと好きなくせに」
「……忘れるために女子と付き合う的な想像してくれてもえぇやろ」
「バカじゃないの。あんたはそういうこと出来るタイプじゃないわよ」
チューハイを勢いよく飲み干して、カンッと音を立てて缶をテーブルに戻したエミにジロリと睨み付けられる。
「だいたいね。あんたはホントに口先だけで女の子コロッと騙せるくせに、表情が伴ってないのよ! 沙紀だってそこは気付いてたわよ」
「……」
「沙紀はあんたのこと好きだから、まぁそれでもいいかって思ったみたいだけど」
「……ほんなら別に……」
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