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「良い訳ないでしょ! あんたどうせ夜に呼びつけることしか考えてないくせに!」
「……」
悪酔いするタチだったのかとゲンナリしながら、エミのお説教を正座のまま聞く。
クドクドと説教が続く中で、エミの服装に気がついた。
「……お前」
「何よ」
「……いや……カーディガン着とるとは言え、ノースリーブ……」
「あぁ、気がついた? もう新しい傷はないし。古いのも目立たなくなってきたから。たまにはね」
「…………幸せなんやな」
「なぁに、しみじみ言っちゃって」
いや、と呟いて痺れた足を崩す。エミはちらりとこっちを見たものの、それ以上説教するつもりもないのか、それともこのままのろけ話にでも突入するつもりか、何も言わずに新しい缶を開けた。
「……まぁもしかしたら、またやっちゃうこともあるかもしれないけどね……少なくとも今は大丈夫」
「そうか……良かったな」
「ありがと。……あんたは、いつまで我慢出来そうなの」
「なんじゃその聞き方……」
「間違ってないでしょ」
にこりとも笑わずに呟いて肩を竦めたエミが、はい、と開けたばかりの缶チューハイを手渡してくる。
無言で受け取って口をつけたら、自棄気味に煽った。
「ちょっ……」
「──もう限界なんかとっくに過ぎとぉ」
一缶飲み干す勢いで傾けたのに、結局途中で息が続かなくなってテーブルに缶を戻しながら呟く。今日の酒はやけに苦い。
「……ちょっと、飲み過ぎないでよ?」
「心配すんな。お前とはもうヤらん」
「……なんで、あたしとはなのよ」
「お前えぇヤツおるんやろ。そういうヤツとはせん。面倒なことは御免や。つーかなぁ、アイツのおかげで酒にはめっちゃ強なったわ」
ヤケクソ気味に笑ったら、あんたが一番面倒臭いわ、と呆れたような憐れむような声でエミが呟いた。
「……くそ……頭痛い……」
「飲み過ぎよ。あたし先行くからね」
翌朝目が覚めたら、特大の頭痛に見舞われた。どれだけ酒に強くなっても二日酔いの地獄からは逃れられないのだろうか。
以前よりも柔らかくなったメイクを終えてエミが出ていく。ドアの開け閉めする音さえ不愉快で、このまま二度寝に突入してやろうかと思ったものの、顔を会わせないまま出ていった渉のことも気になる。
どうにか身支度を整えたら、重たい体を引きずるようにして家を出た。
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