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──あぁ、だから。
この恋に望みなんてないと分かっていたくせに、どうして告げてしまったのか。黙ってさえいれば、少なくとも友達ではいられたというのに。
全てを失ってまで、告げる意味はあったのだろうか。
オレを見ない渉は相変わらずオレの手から逃げようと身を捩っていて、パッと手を離したら渉はよろめきながらもオレから距離を取るように後退った。
「……悪ィけどさ……もう二度と、オレに近づくなよ」
「……」
「まじで、……きもちわりぃ」
「っ……」
吐き捨てる渉の顔は俯いたままでその表情は読めないけれど、投げ捨てられた声の強ばり方がその忌々しさを如実に現していて、傷付くなんて生半可な言葉では片付けられない痛みを隠して首を縦に振った。
「…………わかった」
その声を、渉は聞いたのだろうか。
ふぃ、と。
回れ右して駆けていく後ろ姿を悔しく切なく見つめながら、堪えきれなかった涙がその姿に霞をかける。
震える指先で目元を拭いて、ふっと苦笑いに似た溜め息を1つ吐いたら、失ったものの大きさは考えないようにして自分も回れ右。
自分の考えの甘さを責め立てながら、家路についた。
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